ベトナムの伝統的な民謡「クアン・ホ・バック・ニン」



「ベトナムの文化というと、一番印象に残る代表的なものは何だろうか」。この質問をされたら、ほとんどの人はアオザイの伝統的な衣装や、有名なフォーなどを挙げるだろう。というのは、ベトナムの伝統的な音楽を代表的な文化の例として挙げる人はやはり少ないが、ベトナム文化における重要な役割を果たしている昔から伝わってきた音楽の役割を否定できない。今回ベトナムの伝統的な音楽として見られるバック・ニン省のクアン・ホについて紹介したいと思う。

ベトナムの伝統的な音楽と言っても、幅広く、中にはいろいろな種類があるが、ハノイのすぐ隣にあるバックニン省の民謡が一番有名だと言っても過言ではあない。ベトナム語で言う「クアン・ホ」とは民謡の意味を指し、由来はベトナムの北部にあるバックニン地方だと考えられている。「クアン・ホ・バックニン」と呼ばれるのもそのためである。

バックニンのクアン・ホは17世紀に生まれ、ほとんどは恋愛についての和やかなメロデイーを持っている歌である。歌の内容によって、歌う人は男性か女性に限ることもあるが、歌の人称を変えることによって、同じ歌でも男女を問わず歌えることもある。しかし、「クアン・ホ・バック・ニン」の一番面白いところは、男性と女性の二人組みで一緒に歌う歌が多いということだ。有名ですからこそ、「クアン・ホ・バックニン」は全国の舞台で演奏されていることが多いが、もともと、バックニン出身の若い男女は互いに気持ちを伝え合うためにこのような歌を借りたそうだ。また、バックニンのクアン・ホを歌う際の服装についても、厳しい規制があるということである。即ち、これは昔から伝わってきた伝統的な歌なので、歌う人も伝統的な服装を着なければならない。その伝統的な服装は「アオ・トゥ・タン」(4枚から構成される服)というもので、「アオ・トゥ・タン」と地味な傘とベトナム伝統的な帽子を揃えるセットはバック・ニンのクアン・ホを歌う際に必要な服装である。

「アオ・トゥ・タン、傘と伝統的な帽子」
「アオ・トゥ・タン」
ボートで演奏する

上述のように、バックニン地方の民謡はベトナム人にとって非常に人気がある。バックニン省のクアン・ホは和やかなメロディーを持つことが第一の理由だと考えられる。最近、ロックやポップなどの現代に伴う新しい音楽の種類も続々現れて来たが、バックニンのクアン・ホとは全然違うイメージだ。それぞれは、とうしても海外からベトナムに流入してきたもので、ベトナム独自の特殊のある音楽を代表するものにはなれない。ベトナム人の若者の中では、新しいポップとロックなどが好きな人が多いが、バック・ニンのクアン・ホを聞くと、心が和むと感じるというような人も少なくない。特に、新年の時に、ベトナム全国にわたり、あちらこちらで祭りが行われているが、その中でも、バックニン省での祭りが一番多くの人を引くことができると言える。祭りのときに、バック・ニン出身の人はもちろん、他の地方からの人々もバック・ニンに押し寄せに集まってきて、バックニンの民謡の演奏に参加したり、聞いたりして、楽しむ。クアン・ホの内容も日常生活に身近なものなので、歌う人は必ずしも歌手のような演奏を求められるわけでもないので、演奏の形式は非常に面白くて、型苦しい雰囲気を観客に与えない上に、観客に一緒に参加してもらいやすい面もある。 “Moi trau”という歌はその典型的な例として挙げよう。この歌を歌いながら、歌う人は観客にキンマ(昔の人はキンマを食べて、歯を黒く染めるとのこと)を差して、「どうぞお召し上がり」と誘う。すると、観客に好感を与えられ、更に応援してもらえる。

ベトナムのキンマ
「どうぞお召し上がり」

毎年1月ごろになると、バックニンでは「ホイ・リム」(Hoi lim) という祭りが行われる。「ホイ・リム」はバックニン省の民謡を愛している人が集合する場となる。バックニンのクアン・ホを楽しむために、、 「ホイ・リム」に足を運ぶ人がは数万人をも超えている。

ホイ・リン
ホイ・リンにおけるバックニーンのクアン・ホの演奏

現在、ベトナムの政府と国民は、「クアン・ホ・バックニン」が世界文化遺産になるようユネスコと議論しているところだそうだ。バックニンのクアン・ホはただ音楽の一つの種類だけでなく、ベトナムの伝統的な文化を象徴するものでもある。

筆者は、ベトナムのこの文化を世界に知ってもらいたいという熱望を持っており、ベトナムに来るチャンスがある方にはバックニンのクアンホをお勧めしたいと思っている。

Nguyen Thi Ngoc Anh